ここ以外の世界の事


ここ最近、 

何度も何度も心は森へ旅立ちます。


最後に行った森で見た沢に続く雪の上の足跡は 

熊と鹿ともう一つ小さい足跡でした。 




雪は静かに降り積もって 

少しずつ嵩を増していき、 

そこに暮らす鹿は風の当たらない場所で休み 

食べ物を探して歩き、 

熊は穴の中でウトウト眠っている。 

そして樹々が雪の重さに耐えながら 

じっと立ち尽くしている。 



 私の頭の中の森です。 


 こんな風に森に心を寄せる度に 

 思い出す話があります。 






 星野道夫さんの「旅をする木」と言う本にある 

「もう一つの時間」と言う大好きな1篇です。


 星野さんが東京の電車の中で揺られている時に 

 本で読んだ北海道のヒグマの事が頭をかすめる、 

 自分がこうやって暮らしているこの瞬間にも 

 同じ日本でヒグマが生き、呼吸をしている、 

 その事が不思議でならなかった。 

 知識としてではなく感覚で世界を意識したのだ、

 と書かれています。 


 星野さんとアラスカの海でザトウクジラを見た女性は 

 ザトウクジラが飛び上がり宙を舞うのを見て言います。 

「ここに来て良かった。 

 自分が都会で忙しく過ごしている同じ瞬間、 

 アラスカの海でクジラが飛び上がっている

 そのことを知っただけでも良かった。」と。 


 そして自分たちの普段暮らしている同じ時間に 

 もう一つの時間がゆったりと流れている。 

 それを意識出来るかどうか、 

 天と地の差ほどに大きい、

 と締めくくられています。 



 数秒で料理が温まったり 

 隣町まで数分で行けたりする 

 私たちの時間の流れとは違う世界の事。


 普段使っている物差しでは測れない世界の事。 


 何処かここ以外の世界の事。

 


 そんな世界を意識出来る事は 

 今の世界が絶対ではない事を知る事です。 

 それはどこかしら安心出来る、 

 肩の力が抜けていく気分になるのです。  

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