蜩(ヒグラシ)
7月のある午後、森へ出掛けました。
葉の隙間から陽射しが地面に降り注いで
地面には下草が育っています。
谷間を歩いていると
ある一本の樹に
セミの抜け殻が付いていました。
背中の部分に深く切れ目が入っています。
少し小さめのセミの抜け殻の主は蜩です。
水辺のまだ若いミズナラの葉の裏には
沢山の蜩の抜け殻が付いていました。
森へ入ると聞こえて来る蜩の声。
カナカナカナカナカナカナ。
太陽は容赦ないけれど
沢のせせらぎの音と
たまに吹く風が揺らす葉擦れの音と
この鳴き声を聴きながら
森の中を進みます。
「夏の記憶はこの箱に入っています」
そう書いてある箱を開けたら
一つは出て来そうな風景で
ほんの少し現実から離れたようで
何度も足が止まってしまいます。
ぼんやりと歩いていたら
沢で涼んでいたらしい鹿が
目の前の斜面を急いで駆け上がって行きました。
蜩は早朝や夕暮れの薄暗い時間に活動するらしく
昔の人は日を暮れさせる、
夜を連れて来るセミとして
「日暮」(ヒグラシ)と名付けたようです。
0コメント